加害企業と遺族との関係 JR福知山線脱線事故(産経新聞)

【JR福知山線脱線事故】加害企業は変わるか(上)

 3月25日朝、兵庫県尼崎市のJR福知山線脱線事故現場に設けられた献花台にJR西日本前社長、山崎正夫(66)がいた。

 この日は、事故から4年11カ月。遺族にとって事故で亡くした肉親の月命日だ。山崎は副社長とともに献花台に並び、花を供える人たちを出迎える「立哨(りっしょう)」役を務めていた。この日は雨が降り続いていた。傘をさして献花台を訪れる遺族らに、山崎は深々と頭を下げていた。

 脱線事故後のJR西が歩んだ道は、被害者対応の連続だった。遺族や負傷者に社員を担当者として配置し、役員らも被害者宅を回り、謝罪を続けた。事故の起きた4月25日には毎年、追悼慰霊式を開催。取り組みを報告する説明会も何度も開いてきた。

 この歩みは昭和60年8月に起きた日航機墜落事故の日本航空の被害者対策と似ている。日航も遺族に社員を担当させ、説明会を何度も開いた。発生から半世紀が経過しても、社員らは現場の群馬県・御巣鷹山へ慰霊登山を続け、犠牲者520人の霊に祈りをささげる。

 JR西が脱線事故を社員教育に活用するために開設する「鉄道安全考動館」。日航も事故機の残骸(ざんがい)などを展示する「安全啓発センター」を開設した。

 大事故を引き起こした加害企業は、同じ道を歩むのだろうか。

 社長を辞し、嘱託となった今も被害者を訪ねる山崎は、今後について「一生やり続ける」と話した。

   × × ×

 次男の昌毅=当時(18)=を失った神戸市北区の福祉施設職員、上田弘志(55)の自宅に今も2人の担当者が毎月訪れる。担当者は祭壇の遺影に手を合わせ、上田と数時間話し込むことが多い。

 上田は最初、担当社員を何度も怒鳴った。上田の要望が、本社中枢に伝わっておらず、的確な返事が返ってこなかったためだ。社員はその都度、頭を下げ続けた。今は上田も腹を立てることが少なくなった。「新しく変わった担当者ががんばってくれる。こちらの要望も、なんとかしようと努力してくれる」という。

 上田にとってJR西は息子の命を奪った加害企業だが、担当者との関係を「担当者とは友達とまではいかないが、笑って話せる関係に自然になれたらいいと思う」と話した。

   × × ×

 被害者側は、これまでJR西自らによる事故の検証を求め続けてきた。JR西は、旧・国土交通省航空・鉄道事故調査委員会の事故報告書作製や、警察や検察による捜査を理由に拒んできた。このことが両者を隔ててきたが、最終報告書提出と業務上過失致死傷罪の公訴時効(5年)を前に山崎が起訴され、状況は変化している。

 昨年12月25日、脱線事故の遺族とJR西が合同で事故原因を究明する「課題検討会」の初会合が開かれた。事故の背景ともされる懲罰的な日勤教育や過密なダイヤ編成などを加害企業と被害者が合同で分析する場だ。まだどんな成果に結びつくかは不透明だが、それでも加害企業と被害者が手を携える可能性が見えてきた。これは日航ジャンボ機墜落事故でもなしえなかったことだ。

 遺族にとってJR西が最優先で安全に取り組む企業になることは亡くなった肉親の「遺言」だ。次男を事故で亡くした上田は「事故の刑事裁判が終わり、JRが安全になっても、担当者には『もう来なくていい』とは言わないだろう。僕は死ぬまで、JRの安全への取り組みを見続けたいから」という。

 乗客106人の命が失われた事実はJR西にとって重い「十字架」でもある。遺族や被害者の提言は十字架をともに背負う力になる可能性を秘めている。

     =敬称・呼称略

     ◇

 脱線事故を機会に「安全軽視」「上にものがいえない社風」など多くの批判をあびたJR西。事故から5年を迎えるのを前に、加害企業・JR西が、どう変わろうとしているのか。2回にわたって考えてみた。

 (JR脱線事故取材班)

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